- train time scalingの定義と、pre-training・fine-tuning・test time scalingとの違いを説明できる
- STARのrationalization機構とその前提・限界(logical leapの壁、負例学習の未解決)を説明できる
- GRPOがPPOのメモリ問題をどう解決し、group baselineによってadvantageをどう推定するかを説明できる
- DAPOがQwen32Bで直面したentropy collapseや応答長暴走の原因と、それを解決する4つの技術(非対称クリッピング、dynamic sampling、token-level loss、soft overlong punishment)を説明できる
- pass@kとmajority@kの違いを理解し、なぜtrain time scalingがモデルの根本的能力ではなく一貫性を高めるに留まるのかを説明できる
6.1Train Time Scalingとは何か——test time scalingとの関係
本章で扱うのは、講義で「train time scaling」と呼ばれる第三のスケーリング軸である。これまでの講義ではモデルパラメータ数を増やす通常のスケーリング、そして推論時に複数のサンプルを生成し多数決や検証で最良解を選ぶtest time scalingを扱ってきた。train time scalingはこの二つを繋ぐループであり、test time scalingで得たモデル自身の出力をフィルタし、それを使ってモデル自体をfine-tuningし直すことを指す。講義では「このループさえ覚えていれば、train time scalingの基本を理解したことになる」と強調された。
この技術の重要性を示す数値として、AIME(American Invitational Mathematics Examination)ベンチマークが提示された。AIMEはMATHベンチマークが飽和・汚染(多くのモデルが学習データに含んでしまった)したために導入された、より難易度の高い数学推論ベンチマークである。GPT-3.5(1750億パラメータ)はAIMEで約5%の精度しか出せない。ところがtrain time scalingを適用したDeepSeekMathは、わずか7Bパラメータのモデルで51.7%、追加の工夫を加えると60%に達する。さらに第三の論文であるDAPOをQwen32Bに適用すると50%に到達する。パラメータ数の桁が二桁近く違うにもかかわらず、小さなモデルが大きなモデルを凌駕する——この事実こそが本章の出発点である。
講義ではこの背景にある三つの鍵となる洞察が示された。第一に、モデルを事前学習データ(インターネット全体)で訓練するのではなく、モデル自身の出力を賢くフィルタして学習させることで、モデルをさらに改善できる(本講義が属するクラス名「self-improving AI agents」の由来でもある)。第二に、モデル自身の出力に対する訓練に投じる計算量は、モデルパラメータ数の代替になり得る。第三に、教師あり学習と異なり強化学習では実装の細部が極めて重要であり、スケールアップするほど些細な修正が結果を大きく左右する。
講義では学習パラダイムを次の4つに整理した。(1)事前学習:インターネット全体で訓練する(第1回講義)。(2)fine-tuning:人間のフィードバックによる好みデータでのRLHF等、チャットボットを作る段階。(3)test time scaling:推論時のサンプリングと多数決・検証(前回までの講義)。(4)train time scaling:test time scalingでフィルタした出力を使い、モデル自体をfine-tuningし直すループ。O1のAIMEでの結果は、train time computeとtest time computeの両方を増やすことでpass@1精度が向上することを示しており、この技術はverifiability(検証可能性)のある領域、すなわち数学やコードのように出力の正誤を機械的に判定できる領域で特に効果を発揮する。
6.2推論モデルはなぜ難問を解けるのか——Chain of Thoughtの内部構造
推論モデル(OpenAIのoシリーズ、Gemini Flash Thinking等のフロンティアラボの同等モデル)が難しい問題を解けるようになった背景には、chain of thoughtの活用がある。単純に解答を書き出すのではなく、推論のために大量のトークンを段階的な思考過程に割り当てる。講義ではそのトークンが担うパターンとして、問題分析(problem analysis)、タスク分解(task decomposition)、自己評価と自己修正(self-evaluation, self-correction/backtracking)、そして並行探索(複数のアプローチを同時に試す)の4つが挙げられた。
具体例として、o1系列モデルの初期バージョンの出力が示された。一つ目は、文字列を行列として解釈し転置するbashスクリプトを求める問題で、モデルはまず入力・出力フォーマットの理解に時間を割いてから解法に取り掛かった(問題分析)。同じ問題でモデルは「まず入力文字列をパースし、行列を構築し、転置し、同じフォーマットで出力する」と手順を分解してもいた(タスク分解)。二つ目の例は化学のpH計算問題で、モデルは計算を始めた後に「待てよ、正しい公式は違う」と気づいて式を修正した。これは既存知識から引き出した情報であっても、自らの誤りに気づいて訂正する自己修正能力を示している。
これらの推論行動がどの程度性能に効くかは、ドメインのverifiabilityに強く依存する。GPT-4o(非推論モデル)との比較で、コンピュータプログラミング、データ分析、数学計算のようにverifiabilityの高いドメインでは推論モデルの勝率が50%を超えるが、個人的な文章作成や編集のようなドメインではそれほど改善が見られない。つまり、正誤を検証できるループを閉じられるドメインほど、train time scalingの恩恵が大きいという本章全体を貫くテーマがここで先取りされている。
ある受講者は「これらの推論行動(バックトラッキングや自己評価)は本当に新しく創発したものか、それとも元々統計的に存在していたパターンがより顕在化しただけなのか」という問いを投げかけた。講師はこれを未解決の問いの一つとして本章末尾のオープンプロブレムに位置づけている。
6.3STAR:少数のrationale付き例から自己ブートストラップする
第一の論文はSTAR(Self-Taught Reasoner、スタンフォード在籍の著者による研究)である。既存アプローチには次の限界があった。インターネット規模のデータには推論ステップを含むものがほとんど存在しない。人手で推論ステップを付与するのは極めて高コストである。既知の解法パターンから自動生成する方法は特定ドメインでしか機能しない。そしてfew-shot promptingで推論例をいくつか見せる方法は、推論なしの大規模データセットで直接fine-tuningした場合に性能で劣ってしまう。
STARの鍵となる発想は単純である。まず少数のrationale付き例から出発し、約1万問(10Kは代表的な数値)に対してモデルに解答とrationaleを生成させる。そのうち正解にたどり着いたものだけを残してfine-tuningし、このプロセスを繰り返す。ここで重要なのは「不正解だった問題をどう扱うか」である。不正解の問題をそのまま捨てると、モデルは新しい問題を解く方法を学習できない。そこでSTARはrationalizationという技法を使う。正解をヒントとして与え、そこから逆算的にrationaleを生成させるのである。この生成されたrationaleを(ヒントを見せた事実は伏せて)問題・rationale・答えの三つ組として訓練データに加えることで、より難しい問題まで訓練セットを拡張できる。
この手法は3つの前提の上に成り立っている。(1)数学のようなドメインでは最終出力の正しさが推論品質の代理指標になる、(2)モデルは答えをヒントとして与えられれば妥当な推論経路を生成できる、(3)初期モデルは少数のfew-shot例からブートストラップできるだけの能力を持つ。実験はGPT-J(6Bパラメータのオープンソース版GPT-3)を用い、GSM8K(小学校レベルの算数)、CommonsenseQA(日常的な常識問題)、多桁の足し算、合成データの4つのタスクで行われた。CommonsenseQAでは人間評価者がSTAR生成のrationaleを好むという結果が出た一方、GSM8Kでは改善が限定的だった。これはGPT-Jにとってこの問題が既に「簡単すぎた」ため、chain of thoughtを強制することとrationalizationステップを与えることに大差がなかったためと分析されている。
rationaleの品質を評価する良い手段がない(人間評価かprocess reward modelが必要)ため、正解に到達していても途中に誤った推論ステップが混入する「真陰性・偽陽性」の問題が残る。また、few-shot promptに使うrationaleの書式自体が、生成されるrationaleのスタイルにバイアスを与えてしまう。負例(不正解の試行)から有用な情報を学習する手法は、この時点ではまだ確立されていない。
6.4logical leapの壁とSTARの発展形——V-STAR、Quiet-STAR
講義中、「STARの性能を制限する要因は何か」という討論課題が出された。受講者からは、rationalizationはあくまで既に正解と分かっている答えに対する後付けの説明生成に過ぎず、訓練データに存在しない論理的飛躍(logical leap)をモデルが新たに生み出すことは期待できない、という指摘が出た。別の受講者は、ベースモデルがヒントを与えられてもなお正しく推論できない問題では、rationalization自体が破綻し、誤った推論チェーンを正解のフリをして訓練データに混入させてしまう危険性を指摘した。講師はこれらを踏まえ、「この領域の魔法の大部分は、土台となるベースモデルが何をできるかにかかっている」とまとめた。
この議論を受けて、STARの発展形として2つの手法が簡単に紹介された。V-STARは、STARの「正解=良いrationale」という単純な代理指標に代えて、generatorとverifierを組で訓練するループを導入したものである。Quiet-STARは発想を変え、推論ステップを自然言語(英語)で書き出すのではなく、MLPを用いてlatent space内で「内的に考える」ようにしたものである。英語で推論を書き出す必然性はなく、モデルが内部表現のまま思考を進められるならその方が効率的だという発想に基づく。
「STARはフロンティアモデルの出力を蒸留(distillation)する手法とどう違うのか」という質問に対し、講師は「本講義で示している解法は小さなモデルでの実演だが、最終的な目標は、モデル自身の出力を使ってモデル自体を改善することであり、大きなモデルの出力を使う場合はそれは蒸留になる」と整理した。STARはゼロから自己改善のループを構築する方法を理解するための題材であり、実務で7Bモデルを改善したいだけならフロンティアモデルからの蒸留の方が高品質なデータが得られる、という現実的なトレードオフも同時に示された。
6.5DeepSeekMath:データキュレーションとGRPOによる7Bモデルの躍進
第二の論文DeepSeekMathは数学推論に焦点を当て、後に広く使われることになる強化学習アルゴリズムGRPO(Group Relative Policy Optimization)を提案した。まずデータの側面から見ると、先行研究のMinerva(PaLMをSTEM向けに改善した論文)はarXiv論文中心のデータで訓練していたが、DeepSeekMathはarXiv論文だけでは数学分野の十分なカバレッジが得られないことを見出し、代わりにCommon Crawlのウェブページを丹念にキュレーションした(Open Web Math)。さらに、コード推論で既に改善されたDeepSeek-Coderモデルを出発点として使うことで、コードでの推論能力が数学推論にも転移することを示した。これはコードベースのモデルから始めることの有効性を初めて示した事例として位置づけられている。
第二の貢献はRLのスケールアップである。RLHFで標準的に使われるPPOは、旧ポリシー・新ポリシー・critic(価値関数)・reward modelという4種類のモデルコピーを保持する必要があり、モデルが大きくなるほどメモリ問題が深刻になる。DeepSeekMathが提案したGRPOはcriticを排除し、代わりに同一の問題に対して複数の解答をサンプリングし、それぞれのreward modelスコアを正規化してadvantageを推定する。具体的には advantage = (報酬 − 報酬の平均) / 報酬の標準偏差 という単純な式で、グループ内での相対比較によってベースラインを構成する。これによりモデルのコピー数を3つに減らせ、メモリを節約しながらRLをスケールできるようになった。
この手法でDeepSeekMathはMATHベンチマークで46.8%から51.7%へと性能を伸ばし、7Bスケールでcriticなしに50%を超えた最初のオープンソースモデルとなった。STARや「online rejection fine-tuning」(オンラインで生成し正解のみ報酬1、不正解は報酬0として棄却する手法)と比較すると、GRPOは複数サンプルにスコアを付けグループベースラインでadvantageを与える点で一歩進んでいる。ただし興味深いことに、この改善はpass@k(k回中1回でも正解する確率、根本的能力の指標)ではなくmajority@k(多数決で正解する確率、一貫性の指標)で現れた。つまりモデルは「根本的に賢くなった」のではなく「より一貫して正解を出せるようになった」ということが講義で強調された。
「難問向けにfine-tuningすると簡単な問題で性能が退行しないか」という質問に対し、講師はまず「報酬の分布が学習信号を左右する」という論点を提示した。すべての問題が簡単すぎて常に報酬1、あるいは難しすぎて常に報酬0になると、正規化しても学習信号(分散)がゼロになり、モデルは何も学べない。ある受講者はこれに加えて「PPOにKLダイバージェンス項が入っているのは、まさにこの退行を防ぐための正則化だ」と補足し、講師も「KLダイバージェンスによって、モデルが既に解けていたことから逸脱しすぎないようにする」という解釈に同意した。
6.6DAPO:Qwen32Bで露呈した破綻と4つの安定化技術
第三の論文DAPOは、GRPOをより大きく難しい問題設定で素朴に適用した際に何が壊れるかを明らかにした研究である。QwenのQwen32Bモデル(誰でも入手しやすいモデル)にGRPOをそのまま適用すると、AIMEベンチマークで約30%にしか到達しない。一方DeepSeek-R1は同ベンチマークで47%に達していた。素朴なGRPOで生じる問題として、モデルのentropy collapse(出力分布の多様性が失われ、モデルが過度に自信過剰になる現象)、訓練の不安定化、そして応答長(response length)の制御不能な暴走が挙げられた。
DAPOはこれらを解決する4つの技術を提示した。第一に、標準PPOの対称的なクリッピング関数は低確率トークンと高確率トークンを同じように扱ってしまうため、探索が早期に収束してしまう。DAPOは非対称クリッピング(Clip-Higher)を導入し、確率の低いトークンがより大きく上昇できるようにした。これによりentropyが安定し、精度も向上した。第二にdynamic samplingである。GRPOでは1問につき複数解答(例として64件)をサンプリングするが、DAPOはさらにオーバーサンプリングした上で、全問正解または全問不正解のグループを除外し、報酬にばらつきのあるグループだけを残す。これにより勾配計算に寄与しないサンプルへの計算浪費を防ぎ、有効なバッチサイズを維持する。
第三にtoken-level lossである。サンプル単位(1つの問題・解答ペアを1単位とする)で損失を計算すると、長く冗長な出力も短く良質な出力も同じ重みで扱われてしまう。DAPOはトークン単位で損失を計算することで、応答長に応じた適切な重み付けを実現した。第四に、モデルが難問に遭遇して思考が長引きコンテキスト長の上限で打ち切られてしまうケースへの対処として、緩やかなペナルティ(soft overlong punishment)を導入し、打ち切られた推論チェーンがノイズとして訓練を不安定化させることを防いだ。
| 適用した技術 | Qwen32BのAIME精度 |
|---|---|
| 素朴なGRPO(ベースライン) | 30% |
| + overlong filtering | 36% |
| + 非対称クリッピング(Clip-Higher) | 38% |
| + soft overlong punishment | 41% |
| + token-level loss | 42% |
| + dynamic sampling | 50% |
最終的にこれら全てを積み上げることで、DeepSeek-R1をQwen32Bに蒸留したモデルの47%を上回る50%に到達した。講義ではこの結果から、RLのループを安定させるには「損失関数の値だけでは不十分」であり、応答長・entropy(低すぎても高すぎてもいけない)・報酬が1になったサンプルの割合(サンプリング回数の妥当性を示す)という3つの指標を常に監視する必要があると総括された。
6.73手法の使い分けと残された問い
講義の終盤では、STAR・DeepSeekMath(GRPO)・DAPOの3手法がどのような場面で使い分けられるべきかが整理された。数百程度のrationale付き例しかなく、RL用のインフラも整っていない場合はSTARが良い出発点であり、GSM8Kのような単純な推論タスクでは相応の改善が見込める(ただし劇的ではなく、あくまでモデルの既存能力の範囲内に留まる)。十分に強いベースモデルがあり、良質な指示データでモデルをまず整えられるなら、DeepSeekMathのGRPOはメモリが限られた環境でも機能する頑健なアルゴリズムであり、標準的な数学推論タスクで実証されている。推論チェーンが長くなる(≒問題が難しくなる)ほどentropyや応答長を含む変数を細かく制御する必要があり、AIMEやIMOのような競技レベルの問題でstate-of-the-art性能を狙うならDAPOのような技術群が必要になる。3手法いずれもmajority@k性能・出力フォーマットの一貫性・複数ステップにわたる一貫性は改善するが、根本的な能力(新しい問題を解く力、ドメイン外への汎化)を伸ばすものではないという共通の限界が強調された。
この限界を踏まえ、講義は開かれた問いをいくつか提示して締めくくられた。第一に、なぜmajority@kは向上するのにpass@k(真の意味での根本能力の指標)は向上しないのか。これに対しある受講者は「モデルは自分が既に知っている設計空間をより上手く探索できるようになっているだけで、探索と検索によって解にたどり着いているに過ぎない」と説明し、講師もこれに同意した。第二に、chain of thoughtで観察されるバックトラッキングや自己評価は真に新しく創発した振る舞いなのか、それとも元々存在していた統計的パターンが訓練によってより顕著になっただけなのか。第三に、失敗した試行(negative example)から有用な情報を学習する技術はまだ確立されていない——現状はほとんどの手法が失敗例を単にフィルタして捨てているに過ぎない。
質疑では、pre-trainingに対するRLの計算比率についての質問も出た。講師によれば、昨年はRL対pre-trainingの計算比率がおよそ1%程度だったが、直近ではおよそ5%程度まで増加しているという見立てが示された。Grok 4はRLに50%の計算を投じたと主張しているが、その比率に見合うほどの精度向上は見られておらず、報酬シグナルの弱さやノイズといった本章で扱ったボトルネックが依然として律速要因になっていると講師は指摘した。
STAR・GRPO・DAPOのいずれも、rationaleの質やRLの報酬シグナルの質は、最終的にモデルの推論能力そのものか、外部の検証器・reward modelの質に依存する。モデルが十分に賢くなるとreward modelがhackされるリスクがあり、逆にreward modelのシグナルが弱すぎると学習が進まない。前回までの講義で扱われた実行フィードバック(コード実行結果を使った検証ループ)やアンサンブル型の検証器は、単一の検証器の限界を補う方向性として言及された。ある受講者からは「AIMEのように問題数が極端に少ないベンチマークでどう十分な学習信号を確保するか」という質問が出たが、講師は「RLはそもそもデータ効率が高い手法であり、問題は『データが足りない』ことではなく『手持ちのデータでhill climbできる報酬シグナルがあるか』という点に帰着する」と答えた。
本章全体を通じた結論として、強化学習は強い報酬シグナルが存在するドメインにおいて、少ない例数でも性能を押し上げる(hill climbする)能力を提供するが、正しく実装するには大きな労力を要する。一方、supervised fine-tuningは高品質なデータが大量にあれば、より速くモデル性能を向上させられるが、推論能力そのものを新たに引き出したり底上げしたりする力は弱い。この使い分けの感覚こそが、次に続く強化学習の各論を理解する土台になる。
- Train time scalingは、test time scalingで得た出力を正しくフィルタしてfine-tuningに還流するループであり、verifiability(検証可能性)の高いドメインで特に効果を発揮する
- AIMEベンチマークでは、パラメータ数で劣る小型モデル(DeepSeekMath 7B: 51.7〜60%、DAPO on Qwen32B: 50%)が、素朴にスケールしただけのGPT-3.5(175B: 約5%)を大きく上回った
- STARは正解した試行のみを保持し、不正解だった問題にはヒントを与えて逆算的にrationaleを生成する(rationalization)ことで訓練データを拡張するが、モデルが訓練データに存在しない論理的飛躍を新たに生み出すことは期待できない
- GRPOはcriticを排除し、同一問題への複数サンプルの報酬平均・標準偏差からadvantageを算出することで、PPOのメモリ問題を解消しつつRLをスケールさせた
- DAPOは非対称クリッピング・dynamic sampling・token-level loss・soft overlong punishmentの4技術で、Qwen32BのAIME精度を30%から50%まで押し上げた
- 3手法いずれも改善するのはmajority@k(一貫性)であり、pass@k(根本的な問題解決能力)は改善しない——モデルは「賢くなった」のではなく「より一貫して正解を出せるようになった」に留まる
- 失敗した試行から学習する手法は未確立であり、検証器・reward modelの質がRLループ全体のボトルネックとして残る
講義の言葉
"So if you take nothing away from this entire lecture but you just remember this loop, then you kind of have learned the basics of what train time scaling does."
[05:24] train time scalingを一言で要約した講義の核心的定義。test time scalingの出力をフィルタしてfine-tuningに還流するループこそが本章全体の骨格である。
"They're assuming that if the model output is correct, which in math they found that that was generally true, the correctness of the final output is a proxy for the reasoning quality."
[19:48] STARの根幹をなす仮定——最終出力の正しさを推論品質の代理指標とみなす発想——を端的に示す発言。この仮定がSTARの強みと限界(誤った推論ステップの混入リスク)を同時に生んでいる。
"RL does provide you in the domains where you do have a strong reward signal. It does provide you the ability to hill climb with fewer number of examples, but it does take a lot of work to get it right."
[60:55] SFT対RLという講義全体を貫く問いへの講師自身の結論。強い報酬シグナルがあるドメインでのRLの優位性と、その実装コストの高さの両方を的確にまとめている。
"Yeah, I mean, it's basically able to explore better in the design space of what it knows, and by exploration and search, it's able to arrive at the solution."
[70:20] pass@kが向上しない理由を説明した受講者の見解に講師が同意した場面。train time scalingが根本的能力の獲得ではなく既知の探索空間内での効率的な探索にとどまることを示す重要な洞察。
用語集
- train time scaling
- test time scalingでフィルタした出力をfine-tuningに還流し、モデル自体のpass@1を底上げするループ。
- test time scaling
- 推論時に複数サンプリングし多数決や検証で最良解を選ぶ手法群。学習済みモデルの重み自体は変えない。
- STAR (Self-Taught Reasoner)
- 少数のrationale付き例から自己生成した正解データで反復的にfine-tuningする手法。
- rationalization
- 不正解だった問題に正解をヒントとして与え、逆算的にrationaleを生成させて訓練データを拡張する技法。
- GRPO (Group Relative Policy Optimization)
- criticやvalue networkを持たず、同一問題への複数サンプルの報酬平均と分散でadvantageを推定するRLアルゴリズム。
- PPO (Proximal Policy Optimization)
- 旧ポリシー・新ポリシー・critic・reward modelの4種のモデルコピーを保持する標準的なRLHFアルゴリズム。
- advantage function
- (報酬 − 報酬の平均) / 報酬の標準偏差で計算される、ある出力が相対的にどれだけ良いかを示す指標。
- DAPO
- Qwen32B上でGRPOを素朴に適用した際に生じる破綻(entropy collapse、応答長暴走)を4つの技術で解決した手法。
- entropy collapse
- モデルが過度に自信過剰になり、出力分布の多様性(探索の余地)が失われる現象。
- pass@k / majority@k
- pass@kはk回サンプル中1回でも正解する確率(根本的能力の指標)、majority@kはk回の多数決で正解する確率(一貫性の指標)。
- dynamic sampling
- 全問正解・全問不正解のグループを除外し、報酬にばらつきのあるサンプルのみを残して学習信号を確保する技法。
- token-level loss
- 出力全体に一律の重みを与えるsample-level lossと異なり、トークン単位で損失を計算し応答長の偏りを是正する手法。
言及された研究・システム
| 名称 | 講義での文脈 |
|---|---|
| STAR (Self-Taught Reasoner) | 本講義前半の中心論文。スタンフォード在籍の著者による研究として紹介され、少数のrationale付き例からモデル自身の出力をブートストラップして推論能力を高める手法として詳説された。 |
| V-STAR | STARの発展形として言及。正解=良いrationaleという単純な代理指標に代えて、generatorとverifierを組で訓練するループを導入した研究とされた。 |
| Quiet-STAR | STARの発展形として言及。推論ステップを自然言語ではなくMLPを用いたlatent space内で内的に行わせる手法として紹介された。 |
| DeepSeekMath | 本講義の中心となる第二論文。7Bモデルでtrain time scalingによりMATHベンチマークで51.7%(追加tricksで60%)を達成し、GRPOを提案した研究として詳説された。 |
| Minerva | PaLMをSTEM向けにarXivデータで改善した先行研究として言及。DeepSeekMathがCommon Crawl(Open Web Math)を使う判断との対比に用いられた。 |
| DAPO | 本講義の中心となる第三論文。Qwen32Bで素朴なGRPOの破綻(entropy collapse等)を解決する4技術を提示し、AIMEで50%に到達した研究として詳説された。 |
| DeepSeek-R1 | DAPOとの比較対象として、AIMEで47%を達成したモデルとして言及された。 |
| Grok 4 | RL学習に計算の50%を投じたと主張する一方、それに見合う精度向上が見られなかった例として質疑応答で言及された。 |
| AlphaCode | 次回講義でtest time searchを実質無限にスケールする事例として名前のみ言及された。 |
| Weaver | 前回までの講義で扱われたアンサンブル型検証器の論文として、受講者の質問の中で言及された。 |
| RLEF | 前回までの講義で扱われた、コード実行結果によるフィードバックを用いた検証ループの手法として言及された。 |